個別作品10

「歪み真珠:影盗みの話」

2010:「歪み真珠」 国書刊行会


声は語った。

影盗みとは何か、誰か。
概要の本・通称赤本の冒頭だ。
気取った書き出しだが、身近に接した身からいえば現実は地味、普通である。
その右手に赤痣があり、やたら気絶して倒れることを除けば普通。
5分後に覚醒したときにその時間がうやむやになる程度に普通。
失神がかれらに日常の逃避行動に過ぎないためと思われる。
鏡を見せるいたずらは、見るのと失神するのどちらが先か程度に反応する。
かれらは生傷が絶えなかった。

赤本は無料で流通している。
行政で地下出版禁書になった事もあったが害がない扱いで今に至った。
発行者の団体は消息は途絶えたままである。
出来の良い解説書と認めざるを得ない。
タイトルは「影盗み伝説とその考察」で怪物と断じている。
この書の手柄は、彼らを設定の固まり・理屈に支配され理屈どおりに行動する事を洗い出した。
鏡で自分の顔を見ていない。
そして早くにそれを試みる事だ。
右手の赤痣は記号的で目印以外目的は不明だ。
彼らを観察したり質問した私は珍しい、正体を隠す彼らの欲求は徹底した。
粘土で葬儀用の彫像を製作する職業は間違いだろうが、本能的と思える。
以下質問。

鏡の認識方法は。
赤本を読んだことは。
眠る間に右手が動くと疲れるか。
両手ききは訓練したものか。
その他、いつも返答が得られたわけでない。

Bの返答は、顔を認識出来ない事は不幸でない、写真やガラスに映るものはひとの顔が区別がつきにくいので、じぶんの顔も事情は変わらない。
ただ鏡は判る。

赤本の書き手は彼らを人でなしと呼ぶ。
影盗みの誕生を小説的に書き一応の説得力はあった。
シャドウは何故顔か、個性が表れやすいのか、彫像製作を見ていると顔は便宜上なのだろう。
影盗みについて芸術家と書き手は述べている。
彼らは仕事でクレームに巻き込まれる、彼らは普通だから。

先日私は新品のような表紙の赤本を見つけ今年の先週の日付があった。
赤本の増刷がこの世にあったのか。
中身を検分した。
一行付け足されていた。
見分け方の冒頭だった。

1・影盗みは必ず男である。理由はなく例外もない。

事情は私も考えたが設定は男でないと成立しない。
鏡の前で気絶して倒れているのが仮に女ならまったく別の話になる。
女であるとは余計な条件という結論になるのは驚きなのだ。


感想:増刷本に驚く。
1行追加・・・それは・・・。
だから、という所で話しは終わる。

「歪み真珠:火の発見」

2010:「歪み真珠」 国書刊行会


この宇宙の名を「腸詰宇宙」と呼ぶ。

ある特別な日を記憶に残る日として語り継がれることがある。
「腸詰宇宙」の全域で太陽の異常は目撃され焦げたものは神聖遺物として後世に伝えられた。
最初は音で初めてだが、「雑音」と表現した。
雑音の次ぎに異常な色の太陽光で異変は明らかだった。
異常燃焼太陽が回廊群に姿を現し、移動する火山だった。
その日の記憶は後で色々な事を思い出させ、人々は火を保存しようとしたが、中央回廊以外は無駄でそこだけだ保存し、夜になっても明るさがそこだけあった。
しかし限界があり火は絶えた。
伝説は残ったが異変の理由は求められていない。


感想:「遠近法」の外伝だろう。
宇宙の構造が変わると異変も変わる。
それの想像は伝説・・。

「歪み真珠:アンヌンツィアツィオーネ」

2010:「歪み真珠」 国書刊行会


人は暗い所で天使に会わず、少女は折々に同じ天使を見た。
天使とは理解できた、翼のあるひとが誰かは自明だった。
姿の現し方に決まりがあり、正面の姿は見せず残像が残った。
一度館の屋上で飛行中の天使を目撃し、自分の守護の天使の考えは確信になった。
秘密を抱え寡黙になり、天使と自分に約束がある、自分の人生は天使の領域に侵犯されていると思うようになった。
夢で天使の声を聞いた。
15才の夢は違い、火事で滅びた世界で剣を持つ異なる天使が棕櫚の枝を振ったので彼女は悶え苦しんだ。

許嫁の決まった16才に彼女は正式な天使の訪れを迎えた。
マリアよと天使は初めて名を呼んだ。
ーー恵に満ちたる汝は精霊によりて身籠りたり。受胎告知の天使は告げた。
ーー御子は半陰陽。世界を滅ぼすでしょう。・・・・


感想:またも天使の話し。
幼少から成長し結婚・受胎まで。
私の名前は・・・・・。

「歪み真珠:夜の宮殿の観光、女王との謁見つき」

2010:「歪み真珠」 国書刊行会


母は私と女王の宮殿の広間に入り、夜の宮殿は明るく女王は食事中で空腹の私と母はこっそりパンを食べた。
母が心願で来たと答えたが、私は一心にパンを食べていたが痩せた娘が私の手元を凝視していた。
女王が誰も同じ事を言うが願い事を叶える理由がないと言い、母は食い下がった。
私のパンを痩せた手が奪い去った。
女王が自分は大理石の糞をし玉座の下の白鼠が悩みといい、女王のむすめは青い顔で座り、私の母はいなかった。
こうしたすべてを、私は二度目に夜の宮殿に行ったときに思い出した。

夜の宮殿に行きたいと年下の恋びとが言ったとき、私は母のことを思い出した。私の子供時代の記憶は欠落し母がいついなくなったか覚えていない。
私たちは夜の宮殿へ出かけ、途中で記憶はさらに確かになった。
観光者のひとりの男が私の言った事を聞いた様子だ。その小男と恋びとが謁見と場所を話した。
私は夜の宮殿の全容にも現実感がなかった。
小男が刷り物の1枚を私に渡し、彼女が読み上げた。 宮殿についてはなしながらサンドウィッチを食べ、花火が始まった。
当たり籤の番号が読まれ、彼女が当たっていると言った。一帯には眠る者もいて通り抜けるには注意が必要で籤が当たった観光者が階段を登った。
間もなく私たちは通路の隅の二人連れに会った。皆が眠たく多くの人数の不眠と眠気が同居していた。見られていると気づいた私はひとりで迷い歩いていた。広間に駆け込むと恋人が謁見場かと言った。
円形の広間には巨大な大理石像が立ち、その口元に食べ滓らしいものが大理石の盛り上がりで刻まれていた。
彼女はバスケットを痩せて青い顔をしたひとにあげたと言い、小男が彫像の回りで倒れ大理石の塊があり、それが女王の糞とすれば帰り道で白い鼠に出会うと私は思った。


感想: 時が経ち、再度、夜の宮殿に行く。
甦ってくる記憶。
時間の経過と、主人公の成長は何を変えるのか。

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