破壊王

「破壊王:第2話 火焔圖(かえんず)」

1980:奇想天外
2000/06:「山尾悠子作品集成」


人垣の間の仮舞台で、女が襤褸を着て人の世の情を忘れた顔で立ち、周囲に囃子方がいた。
女は舞に入り舞終わると、ウタイがはじまりそして、二人舞になった。
それを貴人らしき人が見ていた。
連舞が最初の女が調子を乱しはじめ、観客と貴人はようやく相手が少年と気づいた。
舞台に金子が投げ込まれたら、2人は舞をやめて銅貨に飛びついた。
見物集は、名前を聞かせ王宮に一座を招き、ひとりが買われて寵をうけたと聞いた。
退位した領主は、駿馬と遊猟殿の2つの宝を持つと言われたが、後者に1人の女が住み、それが何かで追いやられ次に美貌の少年が主となり「瑤公」と呼ばれた。

領主の猟場で少年は放心状態でだった、獲物は逃げたあとであり、狩馬の美貌に見とれていたと言った。
後から来た雑人たちは領主の馬かと思うが今は不在で、瑤公かと言い合った。
遊猟殿は、狩で出払って誰もいないと思い、侵入を図ったが少年だけが庭に残っていた。やがて、馬と人が帰ってきて雑人は逃げはじめた、馬は少年が見た馬だった。
馬上の瑤公は、少年の名を聞き「芥」と答え、明日は領主はまだいないから来いといい、馬の名は「華王」といった。
遊猟殿から都の外門へ戻った芥は、嫌いな舞の準備をさせられた。
芥には、姉がいたが雑人では血筋は関係なく、面倒を見ただけだった。
姉は芥の血が赤いと言った。
興行の一行は、貴顕の邸へ連れられ舞をさせられたが、貴顕と座長の思いは芥が瑤公に似ていることだった。
偶然の相似を利用するため、芥を買おうとする話だったが、その最中に姉が舞台を見ようと紛れ込んで矢で討たれて出血したが、濃い紫の血だった。
それは雑人よりも卑しいといわれた血で、姉は去った。
芥は姉を追い、いつしか遊猟殿にきていて、見張りに見つかり顔に焼鏝を押された。

都に新しい雑人が来ては古くからの雑人と争っており、3代前の領主の時代に戦乱が平定した後に新旧の家柄の交代も始まっていた。
火傷を負った芥は野のほとりの家に寝かされていて、遊猟殿にいた女に世話をされており、女が瑤公と話すのを見た。
芥は女から手鏡をみせられ、瑤公と自分の顔が似ている事を知り、同時に「華」とつけられた烙印も見た。
元はかなりの持ち主の家ですごす芥は、女が何かの罪で遊猟殿を追われたと聞いていたが、仇の筈の瑤公と行き来しているのが不思議だった。
芥は傷が癒えていった、そして姉の夢を見た。
気がつくと女がそばに座り、小刀で芥の肘に傷跡と真紅の血を見た。
女は「紫の血がなぜ穢れと呼ばれるか」と聞き、没落と滅びと思われおり、世の滅びの前触れと聞いたと言った。
女は、瑤公は穢れの血筋で知っているのは自分だけで地位を守るために身代わりの芥を利用しようと考えていると言い、顔の傷に困っていると言った。
女は追われてから名はなく、瑤公も追放されると名が無くなると言った。
そして、女は自分の腕を切ると真紅の血だった。

「無為」と名付けた女と話した数日後に瑤公が華王に乗って、もう1頭の馬と芥へ来た。顔の傷にあわてたと言いながら替え玉の教育をしていき、芥が承知したかどうかは気にとめなかった。
瑤公は密かに地位を守る事を考えているようだったが、2人は遊猟殿に向かい瑤公は女が自分と同じ血の色と言った。
遊猟殿への途中で領主が戻り遊猟殿に来ていると聞いて、芥はあわてて身を隠した。
芥が遊猟殿に近づくと瑤公が誰かと言い争い、背後に無為がいた

戦火の噂が広まり貿易も絶えていた、旅から戻った領主も疲れていた。
芥は無為により、瑤公と入れ替わり遊猟殿で一夜を過ごしたが逃げようとして見張られていると気づいた。
見張りは貴顕と座長を迎えた、瑤公は領主に国を滅ぼす無謀な戦を勧めたらしかった。
座長の声が、芥か瑤公かを問うた。
都は大陸からこの島国に帝王の大軍団が来る噂が広まっていた。
王宮では領主と臣下が対応の談合をおこなっていた。
芥はある都の屋敷に入るが誰もおらず最奥で昔退位した「老公」がいて、瑤公かと聞き無為が奥にいると言った。
奥の部屋では無為が眠り、そばに瑤公がいたが王宮から呼び出しがあった。

王宮の談合は決裂し領主だけが戦さの命をだそうとし、襲撃から楯となり瑤公は傷を負った。
無為がその夜に目を覚まし、長い話を芥に語った。
貴顕の家に生まれた無為はいえの没落を見て育ち、一家離散後に無為は雑人に売られた。老公に拾われ、次に領主に移され、その寵愛が衰えた時に瑤公に会った。
無為はそこで一度だけ紫の血を流したが、瑤公は領主を支持して破壊ノ王を待っていた。無為と老公は破壊ノ王が来るのは大洪水の後で最後の王となろうと言った。
芥は真相が分かる事はないと思ったが老公から、明日から瑤公になれと言われた。

翌朝、芥は王宮にいた。
領主は隊列を北西に向けていた。
無為の事をしっているのは、老公と領主のどちらかは判らないが、無為は滅びるものは滅びるしかないと言った。
瑤公が現れ血の色を見られたので、芥に華王を譲り追放になると言った。
芥は領主も穢れの血の人かも知れないと思った。
芥と瑤公は入れ替わり、芥となった瑤公は領主を追って行った。
夏の終わりの日に、芥は遊猟殿を目指し、瑤公から約束通り華王を受け取り戦争も滅びも忘れて馬で駆けた。

芥と無為は穢れの烙印を持って南へ旅したが、領主軍の敗走は聞いた。
芥は華王の扱いを王宮と同じにしようとした、そして大道芸で稼ぎ、戦火でそれが駄目になると盗みを始めた。
秋から翌春の間、無為と2人での放浪は少年期の最後の幸福だった。
夫婦の生活でも無為は華王に触れず、とうとう西端に来た。
そして戦乱にまきこまれると東を目指し都の落城はまだ聞かなく、無為は芥に舞を教えた。
春に疫病がはやり都の近くで無為が発病した、芥は無為を華王に載せて森に入って行った。

日射しのなかで都は落城し、芥は無為を森に寝かせ、華王と都に入った。
王宮は焼かれて領主や瑤公もその中にいるだろうという噂が広まっていた。
王宮に向かう芥は、華王を呼ぶ声を聞き、華王は反応した。
芥は、連れられた家で瑤公に会った。
芥と瑤公の入れ替わりは直でに発覚しており、侵略者は血の色が滅びを招く事に興味を持ち、競い合わせる思いつきが出た。
勝ちの望みに瑤公は領主のいのちを、芥は華王を望んだ。
そして2人舞がはじまっが、芥は馬を望んだ自分を子供のままと知り座り込んだ。

それでも領主も瑤公も殺され、芥は森に戻ったが無為はいなかった。

焼け落ちる火焔を見ながら日没の方角に歩き、判らないままに人は大人になると思った。
舞ながら進む内に、自分に物を忘れる力が残っているときずいた。


感想: あらゆる登場人物が本物か偽物かが判りません。
そもそも何をもって本物というのでしょうか、小説では血の色ですが。
しかしそれも、一度変わったのでしょうか。
しかも、血の色が滅びを呼ぶという・・・二重に本当か判らない。
そもそも、滅びないものが存在するのでしょうか。

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