破壊王
- 「破壊王:第4話 繭(「饗宴」抄)」
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2000/06:「山尾悠子作品集成」
49日の籠城ののちに男女が黒い魂の森へのがれた。
王は若く、王族の快楽のなごりに沈み、未だ婚姻を望まない。
王は毎朝塔に登り、荒廃した首都の俯瞰図が見えた。
ある日、おびただしい鳥が軟泥地に降り立ち、群衆は撲殺した。
49日目に炎上する首都と共に王も燃えつきた。
使者が王に来たが言葉も知らない遠国の蛮人らしからぬ美しさだった。
孤独を求めた王で、全ての門が閉ざされた。
49日の籠城を支えたものは、王の不可思議な驕りだったのだろう。
門の中と外とは偶然に隔てられたが、中も宴の中に沈黙と孤独があったがともすれば自分達を錯覚した。
49日目の夜に火がはなたれて、籠城者は離散した。男は走り続け、女の面影とすすり泣く女の声が耳元をはなれなかった。
見知らぬ女の子が隣を走っていた。
ふたりは歩きだし、女はつぶやくが、男は別の女の事を考えていた。
門の外に住む自分が助かり、籠城に加わるべき女の方が門外に残された。
その後悔がまだ消えなかった。
門外には飢餓と死があり、門内には饗宴があった。
男はたえずつぶやく道連れの女の存在もわすれ、門がおりた時の選別でえらばれた偶然の特権を楽しんだのだった。
門で切り取られた一瞬を思い出し、女の恐怖とその眼の理智と意志力とがあったのだ。
何故なのかは思い出せない。
秋の野で眠気を男に襲い、膝も砕け、意識は消えた。娘は、連れがいなくなった事も気づかずに歩き、黒い森が遠くに見えた。
夜に娘は森に入り進み空き地に着くと、廻りに気配を感じた。
繭、人身大の大きさで数知れなく群れが沈黙していた。
生命の気配があり、近づいて繭を裂くと繊維が体に巻き付いてきた。
引き込まれて中に人を見た、繭の眠る女を見た、あたしだ。
滅亡に浄められた夜に、霊魂の黒い森でひとりの娘が涙を流した。
森の外は闇だった。
感想: 連載時に書かれなかった第4部で、短い「抄」で掲載された。
滅亡と荒廃の前の饗宴。
飢餓の死と、宴の後の滅亡を分けたのは、偶然なのか。
それとも同じ道なのか。
滅亡は、新しい生命のための浄めだったのか。