個別作品03

「蝕」

1979:小説怪物
2000:「山尾悠子作品集成」国書刊行会


月蝕の日に、メッセンジャーのガラは店で食事をしていた。
メッセンジャーのメッセンジャーが、市長からの呼び出しの羊皮紙のメッセージを持ってきた。
店には多くの客が奇妙な物を食べており、奇妙な事も起こっていたが、月蝕のせいだと言う。
ガラは、メッセンジャーのメッセンジャーの人数が増えつつあり何かの陰謀が起こりつつあると聞いていた。
ガラが、市長のメッセージを読もうとすると、107人のメッセンジャーが後から除き込む事に気づく。
店に異変が起こり、メッセージもバラバラに引き裂かれて奪われた。
出かけたガラに、天から来たメッセンジャーと名乗る者が現れて、天使のような者だという。
市長を訪れたガラは、既にメッセージを渡したと聞く、急に何もが増殖していた。
複数の陰謀が同時に発生していると思えた、その中でメッセージも誰から誰に渡されたか確かで無かった。
月蝕が終わると爆発と旋風が起こって、天と地とその間に何かが起きた。
暗黒の中から曙光が差し込んできたが、天と地の中間に現れた巨人が死んでいるのが判った。
そこは出口のない世界であり、屍体の腐臭が満ちあふれた。


感想:別世界の出来事と判るが、その構造は曖昧で終わる。増殖と破壊で何かが変わったのか、生まれたのか失われたのかさえ 明らかでない。

「スターストーン」

1980:スターログ
2000:「山尾悠子作品集成」国書刊行会


詐欺師が10年の監獄から出た。
宇宙から還った飛行士は、現実の時間を越えて未来に戻って来るという、時間の島流しにあった様に肉体は年をとっているが出発時の光景へ。
詐欺師は尾行が多数いることに気づいたが、行くべき場所へ向かった。
10年前に詐欺師はある夜会で宝石を盗んで、そこで一人でいた9才の子供に出会った、お祝いを贈った。
詐欺師は窓から19才の子供を見ていた。
10年を経て時間線が折り返した契約の星、尾行者が部屋にはいると宝石が置き忘れられて若い詐欺師と9才の子供が遠ざかろうとしていた。


感想:掌編です。時間の経過が宇宙旅行の様に、10年前の約束に戻る。詐欺師と子供の契約とは何?。

「黒金」

1980:SFアドヴェンチャー
2000:「山尾悠子作品集成」国書刊行会


狭い床と高い天井の部屋は周囲の垂れ幕で囲まれていた。
大きな時計と、大きなベッドが部屋を占めており、全体が黒い動物の毛皮で作られていた。燭台が天井から下がっていた。
ベッドはめくれて、血だまりのシーツがあった。
ベッドと壁の間に、服を脱いだ女が体中に傷をおって、漸く失神から目覚めた。
シーツの下には、灰色狼が腹を二つに切られて苦しんでいた、その腹から少年が上半身を出していた。
狼が少年を飲み込んでいた時は、双方が生きていた。
それより前の時間には、狼が女と少年を襲った。
それより前の時間には、少年に女が覆い被さっていた。
それより前の時間には、少年が壁に寄り添って、近づく何物かにおびえていた。


感想:不思議な静止的な情景から、時間が遡ります。少しずつ、何故その情景になったのか?。 しかし、最後に遡っても小説は、全ての事を書いてはいないのだろう。
たぶん、主体は狼だろうが、少年と女の時間経過による状態変化が描かれる。それで、狼の行動や書かれていない時間の事を思い浮かべる必要があるのだろう。

「童話・支那風小夜曲集」

1978:奇想天外
2000:「山尾悠子作品集成」国書刊行会
2010:「夢の遠近法 山尾悠子初期作品選」


帰還
世界を放浪していた龍が支那に戻ってきて、人間の姿になって北京の街に来た。
子供と刺客に会ったが、龍は女に会いに行こうと思った。
女と酒を飲んでいると、いくつかのものが声をかけた、漸く支那に戻ったと思った。
刺客が、将軍暗殺を吹き矢で行い、1本の流れ矢が龍に刺さった、龍は支那の地に帰還したと思った。
支那の吸血鬼
フイ氏吸血鬼で恋をしていた、旅から戻ると会いに行った。
大陸の吸血鬼は十字架や大蒜や太陽で滅んで塵になると言うが、支那ではそうで無かった。
多数の支那の吸血鬼がいたが、いつしか見かけなくなった。
酔いつぶれたフイ氏を部屋に閉じ込めて女は、旅に出た。支那の吸血鬼が断食にどのくらい耐えるかは知らなかったが。
スープの中の禽
貧しい料理人が家鴨を勝っていて愛情で結ばれていた。
客の県知事と女が、家鴨のスープを要求し、料理長から料理人は命令された。
あひるは、ちゅうちょする料理人に準備をさせて自ら、羽根を抜き鍋に入った。
料理中も、スープになり肉が切り裂かれても食べられても、声をかけると答えを返した。
貴公子
支那帰りの麗人の領地で狩大会が行われたが、その中に華奢な女の様な支那人がいた。
指定された獲物を誰も狩れない様だったが、支那人が矢で討った。
支那人は、双子で女として育てられた皇太子の弟と言われた。
恋物語
刺客が忍びこむと病気の子供がいた。
子供は夢の中で、恋物語にいた、それを刺客と語り明かした。刺客は失敗した。
翌朝に病み上がりの子供は夢から抜け出し、恋物語は誰も忘れた。


感想:支那とそれ以外は別なのだろうか。 聞いた主人公たちの話が、支那になるとやや違った展開になります。 気持のおもむくままに、幾つかの掌編を書いた風です。

「透明族に関するエスキス」

1980:奇想天外
2000:「山尾悠子作品集成」国書刊行会
2010:「夢の遠近法 山尾悠子初期作品選」


A:風の場面>高い建物が密集した街の狭い道の上空に薄い影を落とす透明なものがいた。
子供が窓から見ていたが風に吹かれて舞って、窓にぶつかりはじけて粘液を出した。
B:水の場面>標高の高い街の建物の周囲に大きめの溝があった。
sこには水棲の透明のものがいた、水流に流されて空中に押し出されてはじけて飛んで汚物がでた。
C:ある人物の登場する最初の場面>数日まえから旅館に泊まっている男は郵便局を訪れるのが日課だった。
窓に向いていると何かが窓にぶつかり、黄濁した粘液がでた。
D:場面は転換して日暮れから夜へ>高い建物の上部にいた透明物は徐々に増えて下降をはじめていた。
E:場面は変わらず夜明けから朝へ>透明ぶつは次第に範囲を広げて、あちこちの壁にぶつかり割れた。
F:強風の場面>町中が透明ぶつで満ちあふれていた。強風によりあちこちでぶつかっていた、街は異様な雰囲気で いたたまれない悪臭だった。


感想:透明ぶつというイメージの存在を、その観察者とともに断片的な経過で描きます。 短く区切られた節は、小説と詩的なものの中間に感じさえします。

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