個別作品09

「歪み真珠:聖アントワーヌの憂鬱」

2010:「歪み真珠」 国書刊行会


悪魔払いの祈祷で幼い王女の口からでた女に抱きつかれアントワーヌは仰天した。
大騒ぎのなかで悠然と王妃は退場し、ひとこと言い捨てた。
女はたちまち男のからだと顔に変身し、アントワーヌは「イラリヨンか」と言った。
弟子であり悪魔が化けたイラリヨンはアントワーヌも区別せず、悪魔と師アントワーヌは激昂した人から逃れ、雲上のひととなり王宮を抜け出し砂漠に向かうが、このところはそこも安逸ではなく足跡があり清浄な砂の世界でなかった。
乗った雲は飛び続け、誘惑者と混同する者が多いと困り、アントワーヌはイラリヨンに何をした問い、誘惑がひとに知られている事を憤慨した。
アントワーヌとイラリヨン議論し、イラリヨンが正面から見た眼が普通でないとアントワーヌは気づき不安になった。
誘惑の間に何を見ていたかを告げ、いつしか雲海の上に出てそこで、悪魔は言った事が嘘と言い、アントワーヌは記憶を逆流しし訪ねると、悪魔は信じるも疑うもこころ次第と答えアントワーヌは頭を抱え一度洩らした事を思いだした。
悪魔は時間を戻し別れ、王妃がアントワーヌを見て救済者を待っていたと思うが、微妙に変わり眼に疑念が浮かぶのは隠せなかった。


感想: 幻想よりも、ホラーに近い作品です。
悪魔が登場するからだけでなく、展開に不思議さよりもどこか怖さがあります。
でも悪魔というなの登場者かも知れません。

「歪み真珠:水源地まで」

2010:「歪み真珠」 国書刊行会


四駆で川岸を上流を目指し昼過ぎに彼女の住まいへの橋を渡り、彼女が見たという橋姫を思い出した。
前世紀半ばまで軽便鉄道の橋で、彼女が通った時に佇む人影があり袴で判り、錆だらけの鉄橋の継ぎ足しは橋姫の気にいらなかいらしく、何度見てもその場所にいたと・・当番制の魔女の言うことでどこまで本気かわからなかった。
堤道を走りトンネルを抜け、この当たりは治水用で植物相を見れば女たちの管理する水源地の特徴がわかった。茶店に寄らず彼女の当番小屋へ急ぎデッキで待っていた。
話しながら荷を運び手料理を食べた。
子供ころ水門のそばに住み水管理を覚えたが水源地管理魔女を恋びとに持つと思わなかった。
サナエさんと彼女が呼ぶ独身の叔母が何かの世界大会に行った話になり、茶店の夫婦はサナエの相手がよく変わると言い「雲見」のだったようで上の池も見ず帰ったと言った。
上の池は当番小屋の山合の池で公園の雰囲気があり、川の水源と思えなかった。
デッキのボートは二度と御免で、当番小屋は水道がなくミネラルウオーターの配達を頼まれた。
客の到着は遅くなり、河口近い街で花火がありオフィスでも出かける者があり、デッキからの眺めは納得できなかった。
花火の音は届かず市街の灯りも固まっていた。 水質管理センターからのバイクの彼氏は断定的に話し彼女と昆虫の話しをし、センターがどこにあるか知らないが、この場所は下流にかけて視界に治まり地図との矛盾が散見された。夜の水源地は当番小屋の明かりだけおもてに映し出した。
予告のふたりが来て会食が進み、彼女の母堂とサナエさんは飲み、泊まるふたりに送られて夜おそく出た。
懐中電灯を振る彼女は妙に子供っぽく見えた。
帰りに橋姫を見た、信号機の停車線でじぶんがこの先も水源地行きを繰り返すとわかっていた。帰路は遠かった。


感想: 一部を変えれば、青春小説・恋愛小説です。
それが「魔女」「橋姫」等のキーワードで一変します。
一体どの様な世界なのだろう、そもそも水源地の管理の意味はなにだろう。

「歪み真珠:向日性について」

2010:「歪み真珠」 国書刊行会


向日性と呼ぶ性質はひとびとの生活を厳格に支配している。日向では活動し、日陰は眠る。
岬の採石場の午前と午後は異なり陽射しの移動で人員配置も移動した。造船所でもスタジアムでも路面電車でも日陰側は動かない。
思い浮かべるのは箱庭の架空の都市と広場の日時計で、色んな人を終日観測出来る。実際に訪れたと主張する者は意外に多く色々な事を伝えた。
曲がっても白昼がつづく町では走り去る猫だけが目覚めている。
マッチ箱のような都市の日陰で眠る者に混ざっていたいと考えるなら、われわれは日陰から日陰へ歩く性質を持つ者である。


感想:短く、実情景はすくない。
ただ光・日光というキーワードの普遍性は高い。
一時の生活を切り取れば、その様に思う人も多いだろう。

「歪み真珠:ドロテアの首と銀の皿」

2010:「歪み真珠」 国書刊行会


屋敷はフウの木屋敷と呼ばれ、歳の離れた夫と過ごしたのは十年あまりだった。夏の終わりに夫が急死し、その秋は幾つかの出来事があった。
逃げた大鼬、銀の皿の首、夜の村はずれの笛の音、不可思議な現象を起こす義理の姪と過ごしたあの年の秋。

屋敷のどこかの婚姻証明書がないと私の身分は確定せず、遺産は無効かもしれあいと管財人Fは言った。
私とFはは書斎でその秋無益な作業を続けていた。膨大だがFが隠匿と主張した。収納庫は覗くだけで見なかった事にした。
居続けるひとの不満をFは私に言い、秋の収穫のもてなしは風習で夫側の親戚は老人ばかりで幸いした。邪魔でなかったがその秋は落ち着きはなかった。
ある朝庭の全てのフウの木が黄葉し、夫の姪の声で私は気づき、犬と庭に行った。
あの子に見えたと私は思った。
姪はトマジと言い親戚を転々とし、会って十年の今は痩せぎすな少女だった。時折の異変とトマジの滞在との結び付けはこの年の少女の家ではよく知られていた。
葬儀で親戚と戻ったトマジは異変も連れ、威力増大していた。事態は複雑になったが村びとの目はトマジに向いた。
フウの根方のむすめは私に銀の皿の首を差し出していたのだったが。

木の種類で幹の肌が違う事を屋敷に来るまで私は知らず、フウの木の幹は梟の背中に似ていた。
季節の使い始めの暖炉はなかなか暖まらず、私の日常を詮索するのが困った。難民収容所のようとFが言い、私は里方の手紙で気が重かった。叔父たちは茸や犬の数を問題にし、犬舎に入れると私は言った。トマジの会話に銀の皿の首が出て・。
Fが慌てたが、私に里方からの手紙を出し相続の問い合わせで、父の妹の夫だった。叔母は昨日手紙で私が家に戻り母の面倒を見るべきと言うが、父の死後は実家と疎遠だった。母からの手紙は何も触れていなかった。
私の従兄弟は厭味な男で書類の完備は必要と思われた、そのときは。
庭でトマジが私以外は見えないが、フウの幹を叩き、白いむすめは銀の皿の首と消え失せた。
笛や鈴の行列を私は見ず、トマジはこっそり見にいった。
白衣の乙女たちの行列はたびたび目撃され評判だった。先頭は銀の皿を捧げ、皿に載ったむすめの首はドロテアの首と呼ばれた。叔母夫婦の手紙に返事を出し、あとは忘れて日々に忙殺された。海の向こうで従兄弟の手紙が近づく事は知らなかった。
Fが怪我をした。
見舞うとどういう経緯かは言わず側に犬がいた。
帰路連れだったトマジは、私が母と十年会っていないと言い、私は返答に困った。私は話題を変えた。
振り向くと村の少女が逃げ去り逃げ遅れた組が怒りの表情を向けた。
叔父達は茸が見つからない不満を言い、伯母は恨みがましく私の顔を見た。

樹木に白いむすめは立っていた。私は書斎の窓から眺めていた。
皿の首が誰かはわかっていたが何かするとは思われなかった。
確かに私はあまり悲しんでいないかも知れず、死んだ夫はどこかの寝室にいつだけとも思われた。
復帰したFは隠し金庫を探し、古くからの使用人の手を借りるより方法はなかった。
トマジが抜け出したのは従兄弟からの手紙が到着した日の夜だった。
私は眼を通したが言い草に立ち眩みがした。
従兄弟が来るつもりが怒りを持った。
妄想で叫びそうになり、会いたくない妹も来るのががまんがならないがどうしようもならなかった。
従兄弟たちを排除する相談にFを探すが叔父に捕まった。伯母が眠りについていた。
トマジはいたかどうか、私は多忙で考える余裕がなかったが、後日悔やむ事になった。

夫と結婚してフウの木屋敷に来たのも秋だった。結婚すれば冬寝室に入ると聞き、私たちも入った。
ひとりが決めごとだが不安で同室し、それ以来、冬の景色は夢のなかにある。
従兄弟が乗り込む日は多くの者に災厄の日となる。
隠し金庫を見つけるために壁や家具を壊して良いと私は言い、従兄弟が来る心配を言うとFは帰れと言えば済むと言った。
私の不安は婚姻の契約と同意が今も有効か否かだった。
部屋の壁が壊され・・書斎で「ドロテアも首」に出会わす事にまもなくなる。
火事だと誰かが言うが既にほとんどが帰ってしまい、トマジがいない事も気づかず書斎を通る時にそれを見つけた。

首は死んでいて、平静なつもりでもさすがに恐怖を感じていたかもしれない。
首はずっとここにいたかったと私は理解した。
首が誰か、噂にならないのは不思議だったが、人には違って見えたのだろう。
あとで違うと知った。
戸外から声を掛けられ気づくと首はなかった。

私が書き物机を調べさせたのは後日だった。
版画のコレクションがあり、婚姻証明書等は別の抽斗から発見された。

右腕を折ったトマジはそのまま冬眠室に入った。
村の火事は納屋を全焼させて治まった。出火は詳細は不明で、まつりは行われず薪の山は積み上げられ乾燥していた。
トマジは火事場でななく墓所で発見され、そこは私が隔日に出向く所だった。
白いむすめは数人の使用人に目撃され、犬に追われ白衣のむすめが見えたそうだ。
逃げたのは白い大鼬だと口々に伝えたが、誰もドロテアの首を見ない。

その年私は極月の上旬まで眠れなかった。
証書は決着がついたが夫なしで眠れるか内心不安だった。
トマジの寝室には老叔母のひとりがいた。
里方の母から手紙が届いた頃は体温が下がり辛うじて読めた。
いつまでたっても従兄弟が現れず、嵐に遭う事を念じたのは無駄でなかった訳だ。
トマジはのちに念願通り母親に行くことになる。母は再度未亡人になったためだった。
私は今でもここにいる。
夫の書斎が今は私の冬寝室である。


感想: 中編の最終です。
冬眠というキーワードで最終に達するが、結局は何だったか不明も残る。
そして、以降の時間の経過がつづられる。

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