個別作品05

「眠れる美女」

1983:綺譚5
2000:「山尾悠子作品集成」国書刊行会
2010:「夢の遠近法 山尾悠子初期作品選」


世界の中心にある大陸の中心に石壇と大理石の棺があった。
中に若い美女がいつからか眠っており、周囲は明るく静かでした。
時間が経過しても、何故か変化はなく毎日を繰り返していた。
長く続いた、二人の生活と男の行動はしばしば奇妙だった。
美女は夢を見ていた。
「多くの騎士が集まり、突如殺し合いを始めた」。
美女が夢から醒めると夢は忘れていたが、棺の蓋は開かず窒息して死に、腐乱した。


感想:夢のような穏やかな世界に眠る美女が、残酷な夢を見て目覚めると、死と腐乱が待っていた。
眠っている間は何も無かったが、目覚めると窒息した。

「傳説」

1982:小説現代
1982:夢の棲む街I遠近法:三一書房
2000:「山尾悠子作品集成」国書刊行会
2010:「夢の遠近法 山尾悠子初期作品選」


石の都の廃墟が見渡す限り続いていた。
いつまでも変わらない静寂の世界に、一つの変化が生じた。
男と女という愛人が現れて、互いに見つめ合ってただ歩き始めた。
廃墟は無数の障害物となったが、それに妨げられる事もなく地形に従って歩きかつ愛しあい続けた。
すると、二人を挟む様に廃墟に変化が生まれ始めた、二人を見守りながら同様に歩く人たちが現れた。
二人は気にせず、見守る人たちには二人の所だけが、異なる色に見えた。
やがて、二人は世界の涯てに達すると、孤独な海があった、そしてその中に歩き始めた。
音楽が流れはじめ、付いて来た人もそれを聞くが、最初は愛の旋律であったが、次第に死の旋律が混ざった。


感想:こうであるでは無く、こうであると思え、の文体が幻想的な世界をより強く印象付けます。 無に現れた二人、そしてそれを見守る為に出てきた人たち、世界の終わりへの旅の終わりは音楽の旋律であった。

「月齢」

1982:ニューウエーブSF
2000:「山尾悠子作品集成」国書刊行会
2010:「夢の遠近法 山尾悠子初期作品選」


月齢に支配される土地を騎馬でおれは旅していた。
旱魃で人が見捨てた地の果てに建物を見た、そこで亡霊に出会ったのでないが廃墟の様子を何故か知っていた。
少年の声が聞こえた、そして気づくと奇妙な群れが迫っていた。
廃墟から転げおちたが、ひとつの拳が口にはまりこみ、体中に畸形の群れが接していた。
前世でおれがここを訪れた時に出会ったいたのか。
おれは異様なものに悶絶した、目的地まであと1日半。


感想:掌編だが、終始大きく変わる情景に読者と主人公のおれは揺さぶられる。 ただ、主人公はどこか過去に記憶があった。
しかし、体中に染み渡る異様なものと感覚に主人公は悶絶する。主人公の旅の目的と予定がその時の判る。

「蝉丸」

1984:小説現代
2000:「山尾悠子作品集成」国書刊行会


姉の君は、ある日庭の雀が少し多く、そこへ清水で晒した米ひと握りを撒かれた。
若い盗賊は孤独だった、無人に見えた館に入ると奥に坪庭があり山桜があり見とれ、館を去るときに蝉の抜け殻を見たが、それを全て忘れた。
近江と山城の境の逢坂の関に、都から着く頃には衣装はあせなくても、身は乱れていた。
少年は「桜に雌雄などない」と思ったがそれは姉の君の夢を横見したと気づかなかった、坪庭の2本の桜と取り巻く人物がいた。雌雄の桜のどの片方が幻影かはわからなかった。
夢は少年を悩まし、桜が燃えた時に姉の君から「蝉丸」と名を呼ばれた。前世にその名の子供と思われた。
姉の君が亡くなり、少年はおびえて逃げた。取って戻ると腐りはてた死体があった。
野に秋を見た。姉の君はおそらく狂っていて、狂気が鏡や蝉の抜け殻に映した幻影と理解出来た。
能に蝉丸という面がある、逢坂に住み、姉の名を逆髪という。


感想:古き時代の話だろう。そして、夢と幻影と前世とが混ざって少年を悩ませた。 舞台は逢坂の関の屋敷の坪庭と、桜のようだ。 夢と幻影が重なって、現実が存在したのかは判らない。

「赤い糸」

1984:ショートショートランド
2000:「山尾悠子作品集成」国書刊行会


子供時代の眉子は夢想癖があり、一本の白い糸が見えた。
それは決して切れない白い糸だった。
足首から伸びる糸は長々と繰り出し、張り巡らされていたが眉子以外には見えも触りもしなかった。
年頃になった眉子は、糸で満たされた繭の街を出る決意をした。
別の街で眉子は、何故街を出ると糸が切れると思い込んだのか疑問に思い出した。
確かめる事があり屋敷に着いたが、一度も来ていない所が迷わずたどりついた。
刺殺体の男と、眉子との50センチの間をつなぐ糸が、赤く染まり終えた。


感想:見えない赤い糸の山尾悠子版ですが、本人には見える糸だった。 運命か夢か幻想かはそれでも判る事は無い。

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