個別作品11

「歪み真珠:夜の宮殿と耀くまひるの塔」

2010:「歪み真珠」 国書刊行会


夜の宮殿には女王が謁見の間の玉座に大理石の彫像でいる。
女王は喋る「領土は無辺で叡智は私を傷つけない」「何度も死んだが死を消化した」「私の食欲は貪欲だ」
人は眼を凝らし口もとを見る。
気づく、不機嫌な母だと。

馬が叫ぶ「おれは女王の庶子の馬」
女王の庶子が馬に乗り玉座の脇にいる。
女王の庶子は疲れ果て、深く眠っている。
髪を短く切っているが娘とわかる。
女王が喋ると眼を明け凝視している。
何を考えているかは判らない。

夜の宮殿で人が見るものはさまざま。
影は夜の宮殿の属性と言える。
人は宮殿のあちこちで馬に乗った女王の庶子に会う。
人は隠れてやりすごす。
何を探すかでなく誰かを探すと人は考える。

女王は常に夜の玉座に座っている。
女王と剣は一体であった。

ある者は女王の庶子の邪悪な弟について語る。
それによれば、幽閉されていた邪悪な弟を逃がしたのは女王の庶子だ。
その語られる話からわれわれは物語を夢想する。

夜の宮殿は外から見えない。

声は闇の中で語っている。
「母が何故弟を邪悪と決めたか判らない。知っているのは弟の右手だけで、それは私の顔をなぞる。
母の剣を抜いた時の事は覚えていないが、母の唸り声は人間だった。
弟は屋根裏から降り、私は揚げ蓋にの上にのせられ鍵がまた固定された。
私は苦痛で失神を繰り返し気づくと小屋にいて、そこは高く塔の頂上だが弟がいた痕跡はなかった。
はじめて雨を見、嵐や雲を発見し、夜も闇が昼の残滓で充ちた。
餓えが来ると夢を見、ボロボロのパンや腐った水で生きた。

謁見の間で馬が「おれは女王の庶子の馬。本当は塔で餓死したのでここの私は死んでいる。」と言う。
われわれは退出するが、彫像は憤怒の表情を浮かべていた。


感想:謎は増えたり、置き換わる。
だが終わる事はない。
全てが終わってからの話でないだろうからと思う。

「歪み真珠:紫禁城の後宮で、ひとりの女が」

2010:「歪み真珠」 国書刊行会


紫禁城の後宮で女が腰掛けている。御簾の蔭で宦官が見ており盗み見て背後に闇がある。ひとりずつが密偵の役目を帯びている。
長い冬も終わりかける。
女は苛々し爪は長く指輪を外すのは面倒だ。
厠に行きたいと女が言い、女官はかしこまり、女は男達にも重かった。
歩けない様に育てたと女が言い、輿を持った男が来たが女は抱けと言ったが最後に応じた。
英国人の宣教師が違和感で見た。
絨毯で輿から投げ出された女がもがき罵り、皆が同じ事を思った。

老いた女が独り言を言い、盥で足を温め
「変形した足は血が通わない」と言った。
足元の小娘に昔話をして、「出世の常道と男の事」
「男が宮刑になり、自分がこの有様と言い、衰退した血が怪我をした所に現れる」
「男がなくしたものの代わりに鱗が生えたと聞いた」

その夜異変、地響きで女官が廊下に逃げた。
奥廊下が巨大ななにかが通り破壊し、足跡でまともな歩き方でなく、漸く証言が得られた。

五歳の幼帝が広場を見下ろし宣教師から貰った玩具を抱いた。
石畳を女が遠ざかる。


感想:足は老いても治らない。
災害時もまともに逃げられない。

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