個別作品01

「夢の棲む街」

1976:SFマガジン
1978:「夢の棲む街」早川文庫
1982:「夢の棲む街I遠近法」三一書房
2000:「山尾悠子作品集成」国書刊行会
2010:「夢の遠近法 山尾悠子初期作品選」国書刊行会


街の廃墟の劇場にあらわれる、「夢喰い虫」のバクが登場します。
街というが、すり鉢状の円形劇場なのか、それを含む街なのか・・・劇場に現れるのだから後者か・・いずれにしても街の人は外を知らない。
色々な人物・生物?あるいはそのイメージが登場します。
ダンサー・こびと・娼婦・浮遊生物・人魚・・・確かにイメージの世界に生きている。
それにバクが集めた噂であるし・・。
そして、後には何も残らなかった。


感想:廃墟は何かの終末の結果だろうか。しかしそこから、話は始まります、だが結局は何かが生まれたり残ったりした訳でない。
終末からは何もはじまらないのだろうか。もしかしたらば、夢は棲んでいないのか。

「月蝕」

1976:SFマガジン
1978:「夢の棲む街」早川文庫
2000:「山尾悠子作品集成」国書刊行会
2010:「夢の遠近法 山尾悠子初期作品選」国書刊行会


本作は、普通の小説の主題と言っても通るかもしれません。
夢の話とも、現代の怪談とも言えます。
そして、最後の一見、付け足しの様な部分にどのような意味があるのかは、判りません。
主人公の大学生に、姉から子供を預かってくれと電話がかかってくる。
だが、子供が来たのは1日前であり、1日中引っ張りまわされるし、次の日に気がつくと子供はいなくて血が残っている。
そして、姉から急に子供を預ける話は中止と連絡が入る。はたして子供との1日は何だったのだろうか。


感想:幻想的な怪談でしょうか。幻想?妄想?奇談?。

「ムーンゲート」

1976:SFマガジン
1978:「夢の棲む街」早川文庫
2000:「山尾悠子作品集成」国書刊行会
2010:「夢の遠近法 山尾悠子初期作品選」国書刊行会


上空に殆どが靄がかかる世界の都は、崩壊が進行する水上都市だった。
奴隷船が、港に着くと領主の姫が魚類の購入の為に待っていた。そして、同時に川上の「月の門」から連れられた奴隷の子供も買った。
領主の姫は「水蛇」と呼ばれ、小さな隅の館に住む。奴隷の子供は「銀眼」と呼ばれ行動を共にした。
「水蛇」は水路に、多くの魚を飼っていた。
祭りの日に塔の部屋に閉じ込められていたものが逃げだし、都の人は皆逃げ出した。「水蛇」「銀眼」は「月の門」を目指した。
そこではふたりの到着を待っていた。「水蛇」は月の出を見るために湖に出て行く。月の季節には部落でも見えるという。
しかし現れたのは巨大な洪水であり、世界に広がり水上都市を崩壊させた。その後、水面下の世界は「水蛇」が残した魚たちの世界となった。


感想:まさしく幻想の世界に思えます。登場するものが特異なものから、そのものの世界に変わる過程は、「水蛇」にとっては予測されたものか、 あるいは何かさせたのだろうか。

「遠近法」

1977:SFマガジン
1978:「夢の棲む街」早川文庫
1982:「夢の棲む街I遠近法」三一書房
2000:「山尾悠子作品集成」国書刊行会
2010:「夢の遠近法 山尾悠子初期作品選」国書刊行会


私が短い期間出会ったある男が書いていた小説の草稿と、聞いた結末だった。
その内容は、「腸詰宇宙」と言える世界だった、底と頂上の見えない円筒形の世界で内部は空洞になっていた。
内壁に回廊が無限に存在しており、それも上下に全く同じに繰り返していた、人々は向かいの回廊を見る生活だった。
その視覚は遠近法で支配されており、空洞を運行する物体・・・太陽や月で夜等が支配されていて、色々な特徴があった。
私は、彼のイメージがボルヘスの「バベルの図書館」に一致していると感じていたが、特に関心はなかった。
以下、その世界の生活や果てを知る試みや儀式等が書かれていた・・そして、中絶していた。たぶん、「バベルの図書館」の事を私が言ったからだ。
私が彼から聞いた結末は、一匹の巨大で胴が天体の空洞と同じ大きさの盲目の蛇が下りてくる、尻尾が見えると直ぐに頭が見える。そして、尻尾を飲み込む。
これが続いて行くとこの宇宙は最後にどのようになるかというものだった。


感想:奇妙な世界だが、幻想とは最初は違うと思えた。ところが蛇の登場と、その世界の終末が予想されるようになると完全にそれを幻想させてしまいます。

「シメールの領地」

1978:SFマガジン
1978:「夢の棲む街」早川文庫
2000:「山尾悠子作品集成」国書刊行会


ぼくはソロモンと名乗り、領主の遠征に連れられて行った。そしてそこからある島を目指し脱走してきた。
脱走して行く先は、火山島の様な湖の中にある島だった。
話は、回想と、島で出会ったシメールという少女等とが、併行して語られる。
誰も近づけない様に見えた島で、シメールに出会った。彼女は島を支配しているごとく振る舞い、色々な動物を操っていた。ぼくが、神殿に向かう事を阻止した。
祖母は僕が遠征に連れ出される前に、島に行くように言って亡くなった。遠征先で領主の訃報を聞いた時に脱走を決意した。
シメールもその他の色々も、島の内部も謎だらけだった。そして、彼女は領主の死と同時に孕んだ様に見えた。
僕たちが進軍した先は、話とは異なり廃墟だった。それから後は物資の補給もなく悲惨であり、脱走をしたのだ。
僕は「自分は何者か」と問い続け、そしてついに島の脱出を試みた。


感想:主人公の思いは、多くは伝わってこない。読者が不足部分を補う必要があるだろう。 そもそも、自分自身もシメールも謎のままなのだから。

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